04法規
07. 既存不適格
「既存不適格」を理解する上で欠かせないのが「法3条2項」です.「この法律・・・の施行又は適用の際現に存する建築物・・・がこれらの規定に適合せず,又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては,・・・当該規定は,適用しない.」つまり,建物が建てられた時のルールで「OK」なら,その後,法改正があり,ある規定について現行法令に適合しない状態となったとしても,OK(法改正の度に,わざわざ法適合しなくても構わない)という規定です.
ところが次の「法3条3項」で話が変わります.「前項の規定は,次の各号のいずれかに該当する建築物,建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては,適用しない.」つまり,「現行法令を適用する」という事です.何が対象になるかというと,第三号「工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築,改築,移転,大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地」いわゆる「増改築等」を行った時は,やっぱり,建物全体を現行法令に適合させてください,という事です.これを「遡及(そきゅう)適用」と言います.
増築した部分は現行法令に適合させないといけないのは当たり前として,古い建物全体を現行法令に適合させないといけないなんて,それは余りに厳し過ぎる!!そのため,昔はその増築の確認申請をしないで工事する事案が見かけられましたが,これは「既存不適格」ではなく「違反建築物」となります.その建物の価値を下げるだけではなく,何らかの事故があった場合に過失を問われる事も考えられます.そこでこんな状況を回避すべく「緩和規定」が生まれました.それが「法86条の7」です.
「法86条の7」では,次の3つをチェックします.
1項.条件付きで緩和
2項.別の建物とみなす緩和(独立部分)
3項.部分で見る緩和(既存不適格を継続)
それぞれ「政令」で細かく条件が記載されていますので「法→令」の構成をみておいてください.
例えば「令137条の2(構造耐力関係)」を見てみましょう.これは「法86条の7第1項」に規定されている政令となります.
「エキスパンションで切っておけば,増築しても大丈夫だろー!」そんなルールはありません.
第一号から第三号の順に,多くの検討・計算が要求され,
第三号から第一号の順に,成立条件が難しい
と言う事は,常識的に「三号」から「一号」の順に適合をチェックする事になります.
上記の「「エキスパンションで切っておけば・・・」で済むのは,三号の条件に合致する場合のみです.
■学習のポイント
次の問題をみてみましょう.
【法規23032】
特殊建築物等の内装の規定に適合しない部分を有し,建築基準法第3条第2項の規定の適用を受けている延べ面積5,000㎡の病院の用途を変更して,有料老人ホームとする場合においては,現行の特殊建築物等の内装の規定の適用を受けない.ただし,大規模の修繕又は大規模の模様替を伴わないものとする.
【解答】
○
問題文に「病院の用途を変更して,有料老人ホームとする場合」とあることから「類似用途だ!」と反応しがちですが,「確認申請が不要となる類似用途」と「既存不適格が継続となる類似用途」の似て非なる2つの類似用途があります.
「法87条」の構成を確認してみましょう.
—————-
1項:確認申請を要する用途変更
→ 類似用途間は確認申請不要「令137条の18」
2項:用途変更に準用する規定
3項:現行法に遡及適用となる既存不適格の規定
→ 二号:類似用途間は適用除外「令137条の19第1項」
→ 三号:用途制限で所定の範囲で適用除外「令137条の19第2項」
4項:既存不適格の独立部分・準用
—————-
このように「条文の構成」を大枠でイメージするよう意識しましょう.
問題文は「現行法に遡及適用となる既存不適格の規定」に関する内容なので「法87条3項」で判断します.「3項」に記載されている条番号(法27条・・・)は,既存不適格建物に適用となる規定.逆に言うとこれら以外の規定はそもそも適用されません.更に各号の条件に該当することで適用除外となります.新築や増改築と比較すると,用途変更は相当「ゆるい扱い」だと分かります(確認申請が必要なケースでも,工事が完了したら届出のみ.完了検査もありません).
「3項二号」条件より「当該用途の変更が政令で指定する類似の用途相互間におけるもの」→「令137条の19第1項第二号」で「病院」から「有料老人ホーム(=児童福祉施設等)」の用途変更をチェックします.この「類似用途」に該当すれば,「特殊建築物等の内装の規定(法35条の2)」の既存不適格について,当該規定の適用は除外(既存不適格が継続)されます.
注意すべきは「令137条の18」の類似用途との「勘違い・見間違い」です.仮に2つの条文を見間違えた場合,「令137条の18第二号」に「病院」は含まれず類似用途になりません.こうした条文の微妙の違いを出題者はよく知っています.これは決して「引っ掛け問題」ではありません.出題者は,双方の規定の比較・その違いの理解を確かめているわけですから.条文の構成をイメージする事で,出題の意図に迫ることができるようになります.