07施工

12.土工事・山留工事

まずは,オンライン講義の様子をご覧ください(Youtube動画 約4分)

地盤調査,土工事・山留工事,地業工事の3項目は,厳密に分類することが難しく,それぞれに関連している項目が見受けられます.構造文章題の地盤,基礎の設計と絡めて覚えていきましょう.
この項目に関しても,よく質問が来る点などについて,実際の問題文の補足説明(問題文が何を意味しているのであるかとか,問題文や解説文のどの部分が重要事項であるのかなど)に関して説明してきます.


根切りについて
手堀りによる掘削に関して次の表を覚えましょう.

山留め壁の背面に作用する側圧(土圧と水圧との合力)は,一般に,根切りの進行に伴い,土圧は「静止土圧」から「主働土圧」となり,徐々に減少していきます.山留め壁に作用する土圧は,次の3種類あります.いずれも「土を主体」として考えた名称となっています.

各方向の土圧が釣り合っている場合,壁は移動せずに静止の状態にあります.

山留め壁に土圧が働くと,壁が土圧の方へ移動して,構造体が離れる側に移動する状態です.
内部摩擦角が大きい(砂質土)ほど,土が崩れにくいので,主働土圧係数は小さくなります.
主働土圧 = 主働土圧係数 × 土の単位体積重量 × 地表面からの距離

土圧が働いて壁が動こうとするとき,根入れ部分の土が抵抗して,これを押しとどめようとする土の抵抗土圧のことを指します.
 
受働土圧と鉛直方向の圧力との比を受働土圧係数といいます.
 
受働土圧係数 > 静止土圧係数(0.5) > 主働土圧係数 となることを覚えましょう.


排水・止水について
 
被圧水がある地盤における掘削工事では,地下水によって掘削底面が押し上げられたり,地下水が山留め支柱の根入れ部から噴水してボイリングの起こるおそれがあります.そのため,被圧水の水圧をあらかじめ減圧しておく必要がありますね.
 
それらの排水を行う方法としては,かま場排水工法,ディープウェル工法,ウェルポイント工法などがあります.
 
以下,順にそれぞれの工法について説明してきます.

かま場と呼ばれる集水ピットに水中ポンプを設置して揚水する工法です(問題コード13225).
地下水の少ない地盤での根切り工事に適しています.
地下水位を低下させる工法ではなく,掘削溝内に湧き出てきた地下水を排水する工法です.
湧水のある安定性の低い地盤では,ボイリングを発生させ地盤を緩めることがあるため適しません.

径25~40cmのストレーナー(開口)の付いた管を土中に挿入し,ポンプで揚水する工法です(問題コード27064).
集水効果をあげるために,管の周囲に砂礫層を設けます.
地下水位低下は30mを超えます.

 

先端にウェルポイント(集水管)を取り付けたライザーパイプ(6~7m)を地下水面下に多数打ち込み(1~2m間隔),真空ポンプで地下水を強制的に揚水する工法です(問題コード25061ほか).
粘性土地盤より,砂礫層からシルト質細砂層地盤に適しています.
 
また,1段のウェルポイントによる地下水位低下の限界は,空気漏れにより真空度が低下するので,ヘッダーパイプから4~6m程度と言われています.
 
地下水の低下によって周辺の井戸枯れや地盤沈下,あるいは地下水塩水化などが問題により排水工法が適用できない場合には,以下に示す止水工法が採用されます.

止水工法とは,根切り周辺部に止水性の高い壁体などを構築し,根切り部への地下水の流入を遮断する工法です.


山留工事について
 
根切りによって掘削面には側圧が働き,根切り底には周囲からの土や水が回り込もうとします.このような作用に対して安全に工事を進めるために山留めを設けます.
山留め工法について,まとめてみましょう.
 
1.山留め壁のないもの
 
のり付けオープンカット工法とは,掘削区域の周辺に斜面をとって,山留め壁や支保工なしで掘削する工法です.

のり面(掘削・盛土などの斜面のこと)を長期間存置する場合は,水の浸食や乾燥によって破壊しないように養生し,のり面の表面を雨水や地上の雑排水が流れ,表面を崩していくおそれのある場合には,ラスモルタル塗,ショットクリート(モルタル,又はコンクリートを圧縮空気により管路で輸送し,先端のノズルから高速で吹き付ける工法),アスファルト吹き付けなどの方法で表面を保護します.
のり面を短期間存置する場合は,シートなどで養生します. 
支保工などの障害物がないため,施工能率が良い工法です.

2.山留め壁の分類について
 
1)親杭横矢板工法(問題コード27061)
 
親杭横矢板は,H形鋼,I形鋼,レールなどの親杭を計画された山留め壁線上に所定の間隔(通常1~2m)で建て込み,根切りの進行に伴って横矢板を親杭間にはめ込んでいき,山留め壁を形成する工法です.
止水性はないので,地下水の多い敷地には不適当です.

 

親杭横矢板工法が適用しやすい地盤としては,
・中ぐらい以上の硬さをもつ粘性土層
・よく締まった砂層,又は礫層
・地下水のない砂層,又はウェルポイントで排水可能な状況にある砂層
親杭横矢板工法が適用しにくい地盤としては,
・非常に軟弱な粘土層,又はシルト層
・排水が完全にできない砂層
 
 
2)シートパイル(鋼矢板)工法,鋼管矢板工法
 
シートパイル,及び鋼管矢板工法は,シートパイルの1枚1枚を連続して打ち込むことにより,止水性のある山留め壁をつくるものであり,施工性にも優れており,従来から軟弱地盤や地下水の多い地盤,水中の仕切りなどに用いられています.

 

材料自体が不透水性であり,ジョイント部の噛み合わせが正確であれば,水密性があるため止水壁として利用できます.ただし,トレンチシートパイルは水密性に難点があること,及び礫層などの硬質地盤を打ち抜くことができないことに注意しましょう.
 
 
3)ソイルセメント柱列山留め壁工法
 
地盤オーガーで掘孔しつつセメント系注入液を孔中に注入し,原位置土と混合・攪拌し,オーバーラップした掘削孔に応力材(H形鋼など)を適切な間隔で挿入することで柱列状の山留め壁を造るものであり,SMW工法(Soil Mixing Wall)が有名です.

4)場所打ち鉄筋コンクリート山留め工法
 
この工法は,形状により柱列工法,壁工法の2つに分けられます.いずれの工法も現場において地中に孔(壁工法は細長い壁状の孔)を設け,その中に鉄筋かご,あるいは鋼材を建て込み,続いてコンクリートを打ち込んで,そのまま山留め壁とするものです.この山留め壁を建物の一部として使用する場合もあります.

 

使用条件と山留め壁の選択基準の目安についてまとめてみましょう.

3.支保工のないもの
 
1)自立山留め工法
 
山留め壁を根切り外周に自立させ,切梁などの支保工を使用せずに施工するので,障害物がなく施工能率が良い工法です.

山留めかべを根入れ部分で支持された片持ち梁として扱うため,親杭,鋼矢板の根切り底以下の硬質地盤への根入れ深さの検討が重要です.
一般的に,浅い掘削に限定されます.
 
 
2)段逃げ山留め工法
 
自立山留め工法を複数の段階に設けたもので,上段の根入れ部の耐力の取り方が問題になりますが,障害物がないので施工性能は良い工法です.

4.支保工のあるもの
 
1)水平切梁工法
 
側圧を水平に配置した圧縮材(切梁)で受ける最も自然な一般的工法です.

切梁を格子状に組み,水平面内の座屈を防止するとともに,支柱を切梁の交点近くに設置して,上下方向の座屈を防ぎます.
切梁の間隔を大きくとるので,腹起こしの補強や切梁の座屈止めを兼ねて火打ちをとります.
 
 
2)アイランド工法
 
山留め壁に接してのり面を残し,これによって土圧を支え,中央部をまず掘削して構造物を築造します.この構造物から斜め切梁で山留め壁を支えながら周辺部を掘削し,その部分の構造物を築造する工法です.

浅く広い掘削に適しています.
水平切梁工法に比べ,切梁の長さが短いので,切梁の変形が少なく,切梁材と手間を軽減できます.
軟弱地盤では,中央部での掘削が危険であるため適しません.
 
 
3)トレンチカット工法
 
軟弱地盤で大規模掘削を行う場合で,同時に全体の根切りができないとき,山留め壁を根切り場周辺に2重に設けて,その間を先行掘削し(トレンチ),外周地下構造体を土留めとして利用しながら,中央部分を施工する工法です.

アイランド工法と同様に,根切り面積が大きく,かつ浅い場合に適用され,軟弱地盤が厚く堆積し,広い面積の根切りによるすべりやヒービングの対策として有効です.
 
4)逆打ち(さかうち)工法
 
山留め壁を設けた後本体構造の1階床を築造して,これで山留め壁を支え1階床を逆打ち支柱で支えながら下方へ掘り進み,地下各階床,梁を支保工にして順次掘り下がりながら,同時に地上部の躯体工事も進めていく工法です.

工期の短縮ができます.
構造体を地下工事の仮設に使用できます.
 
5)地盤アンカー工法
重機により削孔を行ってから,その先端にアンカー体を設けて,引張材を介して山留め壁に作用する側圧をアンカーの引き抜き抵抗によって支える工法です.

切梁がないため大型機械が利用でき,作業能率が良くなります.
のり付きオープンカット工法,自立山留め工法が不可能な場合や,敷地が傾斜していたり,大きな偏土圧(片側土圧)が作用する場合に利用します.
 
アンカーへの緊張力の導入は,注入材の所定の強度発現を確認した後で,山留め壁の変形などを考慮して,相隣するアンカー数本を段階的に行います.


腹起こし,切梁,支柱の設置に関する注意事項を列記しますので,しっかり覚えましょう.
 
・山留め壁に使用する鋼材,及びリース形鋼材の許容応力度は,長期許容応力度と短期許容応力度の平均値以下の値とします(問題コード14071).
腹起しブラケットは,腹起しをバランスよく設置できるように,腹起し1本に対して2本以上取り付けます.
腹起しの継手は,曲げ応力の小さい位置に設けます.
切梁の継手は,はずれや座屈を生じないように確実に緊結します.また,継手やジャッキ挿入部は構造的な弱点になりやすいので,原則として,切梁支柱(切梁交差部)の近くに設けます.

土圧の計測は,一般的に,山留め切梁にかかる軸力を盤圧計によって行います.
支柱の配置は,切梁の交差部ごとに設置することを原則とします.
切梁の軸力の測定は,土圧が降雨,積載物,気温などにより変化するので,1日に3回は定時測定します.


異常現象として,ヒービング,ボイリング,パイピング,クイックサンド,盤ぶくれなどがあげられます.
 
1)ヒービングとは,N値がほとんどゼロを示すような沖積粘土が厚く堆積しているような軟弱地盤における掘削工事では,掘削場内外の地盤の重量差により,山留め壁背面地盤が陥没沈下し,掘削場内へ回り込む現象を指します.

ヒービングの対策としては,次の方法があります.

剛性の高い山留め壁をヒービングのおそれのない良質地盤まで根入れをして,山留め壁の沈下,移動を抑えます.

掘削位置に近接してヒービングに影響する構造物がある場合,構造物の荷重を良質地盤に直接伝達させ,ヒービングの破壊モーメントに影響させないようにアンダーピニングを行います(問題コード15074).
 
 
2)ボイリングとは,高い圧力を有する上向きの浸透流によって,砂の粒子が沸き立つように激しく持ち上げられることにより,砂がせん断強さを失う現象です.
 
根切り底付近地下水を含んだ砂質地盤がある場合,湧水の排水工法をかま場工法とすることは,掘削場内外の大きな地下水位(水頭)差による,砂質地盤の掘削底面付近の上向きの浸透流を呼び起こす原因となるため,極めて危険です.

ボイリングの対策としては,次の方法があります.

 

3)盤ぶくれとは,掘削底が不透水層で,その下部に被圧水(水頭がその帯水層の上面より高い地下水)を含む透水層がある場合,上部の不透水層の重量が被圧水圧より小さいため押し上げられる現象です.

盤ふくれの対策としては,次の方法があります.

 

4)パイピングとは,水位差のある砂質地盤中にパイプ状の水みちができて,砂混じりの水が噴出する現象です.

5)クイックサンドとは,掘削底面付近の砂質地盤に上向きの浸透流が生じ,この水の浸透力が砂の水中での有効重量より大きくなり,上向きの水流によって砂粒子が水中で浮遊する現象です.


■学習のポイント
問題コード03063リチャージ工法に関して補足説明します.
 
リチャージ工法(復水工法)とは,ディープウェルなどと同様の構造のリチャージウェル(復水井)を設置して,そこに排水(揚水)した水を入れ,同一の,あるいは別の帯水層にリチャージ(水を返還)する工法です.

周囲の井戸枯れや地盤沈下などを生じるおそれのある場合の対策として有効です.
 
構造,施工の各科目で,関連事項が多く出題されていますので,施工項目に限定せず,他の科目の出題と合わせて覚えることをお薦めします.
 
この項目も,基本的には,合格ロケットに収録されている過去問20年分の「知識」の理解で,十分対応可能な項目であると思われます.
頑張って理解しましょう.

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